2013年8月8日木曜日

音声が出た後で

前回(考える日常: 国文読解:麻生副総理の憲法改正めぐる発言)の後、講演の一部音声が出た(麻生副総理の「ナチス憲法」発言の音声)。文章を読んだ時とちょっとニュアンスが違うようだったので、答案を直してみる。
僕は今、(憲法改正案の発議要件の衆参)3分の2(議席)という話がよく出ていますが、ドイツはヒトラーは、民主主義によって、きちんとした議会で多数を握って、ヒトラー出てきたんですよ。ヒトラーはいかにも軍事力で(政権を)とったように思われる。全然違いますよ。ヒトラーは、選挙で選ばれたんだから。ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。間違わないでください。そして、彼はワイマール憲法という、当時ヨーロッパでもっとも進んだ憲法下にあって、ヒトラーが出てきた。常に、憲法はよくても、そういうことはありうるということですよ。
ここで彼は民主主義の危険性について言っている。
ここはよくよく頭に入れておかないといけないところであって、私どもは、憲法はきちんと改正すべきだとずっと言い続けていますが、その上で、どう運営していくかは、かかって皆さん方が投票する議員の行動であったり、その人たちがもっている見識であったり、矜持(きょうじ)であったり、そうしたものが最終的に決めていく。私どもは、周りに置かれている状況は、極めて厳しい状況になっていると認識していますから、それなりに予算で対応しておりますし、事実、若い人の意識は、今回の世論調査でも、20代、30代の方が、極めて前向き。一番足りないのは50代、60代。ここに一番多いけど。ここが一番問題なんです。私らから言ったら。なんとなくいい思いをした世代。バブルの時代でいい思いをした世代が、ところが、今の20代、30代は、バブルでいい思いなんて一つもしていないですから。記憶あるときから就職難。記憶のあるときから不況ですよ。この人たちの方が、よほどしゃべっていて現実的。50代、60代、一番頼りないと思う。しゃべっていて。おれたちの世代になると、戦前、戦後の不況を知っているから、結構しゃべる。しかし、そうじゃない。しつこく言いますけど、そういった意味で、憲法改正は静かに、みんなでもう一度考えてください。どこが問題なのか。きちっと、書いて、おれたちは(自民党憲法改正草案を)作ったよ。べちゃべちゃ、べちゃべちゃ、いろんな意見を何十時間もかけて、作り上げた。そういった思いが、我々にある。そのときに喧々諤々(けんけんがくがく)、やりあった。30人いようと、40人いようと、極めて静かに対応してきた。自民党の部会で怒鳴りあいもなく。『ちょっと待ってください、違うんじゃないですか』と言うと、『そうか』と。偉い人が『ちょっと待て』と。『しかし、君ね』と、偉かったというべきか、元大臣が、30代の若い当選2回ぐらいの若い国会議員に、『そうか、そういう考え方もあるんだな』ということを聞けるところが、自民党のすごいところだなと。何回か参加してそう思いました。
静かに、怒鳴り合いなく、正論を言って、ということなので、「喧々諤々」ではなく「侃々諤々」だったのだろう。
ぜひ、そういう中で作られた。ぜひ、今回の憲法の話も、私どもは狂騒の中、わーっとなったときの中でやってほしくない。靖国神社の話にしても、静かに参拝すべきなんですよ。騒ぎにするのがおかしいんだって。静かに、お国のために命を投げ出してくれた人に対して、敬意と感謝の念を払わない方がおかしい。静かに、きちっとお参りすればいい。何も、戦争に負けた日だけ行くことはない。いろんな日がある。大祭の日だってある。8月15日だけに限っていくから、また話が込み入る。日露戦争に勝った日でも行けって。といったおかげで、えらい物議をかもしたこともありますが。僕は4月28日、昭和27年、その日から、今日は日本が独立した日だからと、靖国神社に連れて行かれた。それが、初めて靖国神社に参拝した記憶です。それから今日まで、毎年1回、必ず行っていますが、わーわー騒ぎになったのは、いつからですか。昔は静かに行っておられました。各総理も行っておられた。いつから騒ぎにした。マスコミですよ。いつのときからか、騒ぎになった。騒がれたら、中国も騒がざるをえない。韓国も騒ぎますよ。だから、静かにやろうやと。
「侃々諤々と静かに議論する 」ことと、「騒ぎになる」ことを対置している。
憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。わーわー騒がないで。
マスコミが騒ぐから、マスコミに気づかせないように、我々もわーわー騒がないで、ナチスの手口を学んでやったらどうか、というブラックジョーク。
本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね。
ここで、また民主主義の危険性の話に頭が戻った。民主主義でも、みんなが納得しても、悪い法はできる。
ぜひ、そういった意味で、僕は民主主義を否定するつもりはまったくありませんが、
 直前で民主主義を否定しそうなことを言ったので、それの補足。
しかし、私どもは重ねて言いますが、喧噪(けんそう)のなかで決めてほしくない。
…という流れのよう。

ネットで他の解釈を見ると、多くが(例えば↓)

麻生「ナチス」発言の解釈をめぐる、解釈者らの国語力の問題 - Togetter

「静かな例」と「騒いだ例」の2つのはずで、静かな例としてナチスを引いたのだから、ナチスのやり方をしようとしているんだ、としているみたい。

私はそれは違うと読んだ。麻生さんは A. 十分に議論せず(上っ面の納得をさせるだけで)こっそり変える(これがナチス)、B. 侃々諤々と静かに深く議論する(麻生提案)、C. マスコミが騒ぎ国民が騒いで変える、の3つを念頭に置いていたように見える。「こっそり」「静かに、よく考える」「騒ぐ」のどれも出てくる。そしてナチスを冒頭で否定していて、騒ぐなと言ってるんだから、Bを主張している。

二項対立にするには「もう一度よく考えて」=「こっそり」と取らなきゃいけないので、そりゃ曲解だろと思うんだが。ブラックジョークを解さないというのは置いといても…

以上、ブラックジョークの適切さと、このような発言をする政治家としての資質は別として。今まで読んだ中ではこれ↓が一番まっとうな対応かな。

小田嶋 隆:麻生さんの「真意」のゆくえ | nikkei BPnet 〈日経BPネット〉:日経BPオールジャンルまとめ読みサイト

2013年8月1日木曜日

国文読解:麻生副総理の憲法改正めぐる発言

麻生さんの発言、一貫して意味を取れるように超訳(笑)してみた。

ソース:朝日新聞デジタル:麻生副総理の憲法改正めぐる発言の詳細 - 政治
キャッシュ:(cache) 朝日新聞デジタル:麻生副総理の憲法改正めぐる発言の詳細 - 政治
しつこく言いますけど、そういった意味で、憲法改正は静かに、みんなでもう一度考えてください。
ぜひ、今回の憲法の話も、私どもは狂騒の中、わーっとなったときの中でやってほしくない。
憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。わーわー騒がないで。本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね。ぜひ、そういった意味で、僕は民主主義を否定するつもりはまったくありませんが、しかし、私どもは重ねて言いますが、喧噪(けんそう)のなかで決めてほしくない。
読解のポイントは、なぜ最後に「民主主義を否定するつもりはまったくありませんが」とわざわざ言ってるか。なお、麻生語では、「ぜひ」と、「そういった意味で」は無意味なことに注意。以下、私の答案。
憲法改正は静かに、みんなでもう一度考えて下さい。 
我々は狂騒の中、わーっとなった時の中でやってほしくない。
そういうことをすると、ナチス憲法みたいにとんでもない憲法を作ってしまう(*1)恐れがある。民主主義ってのはそういう危なっかしいものなんだ。みんないい憲法だと納得して、あの憲法は変わっているからね。もし皆さんがそういうろくでもない憲法を作りたいんだったら、誰にも気づかれないように憲法を改悪したナチスの手口を学んだらどうかね。わーわー騒いで気づかせるより、その方が賢いよ。
もちろん今のは皮肉で、ぼくは民主主義を否定するつもりはないけれど、ともかく、我々は重ねて言うけれど、喧騒の中で決めてほしくない。
(*1) 正しくは、全権委任法を成立させたこと、らしい。

静かにやっても民主主義ではああいうことが起きる、増してや狂騒の中で作ったらどうなるんだ、ということを皮肉で伝えたかったんだろう、というのが私の解答。どうでしょうか。

表情や口調のニュアンスが失われているから、レベル高い国文読解になってしまっていて、正解は麻生さんしか知らないけれど、その場にいて意味が取れないなら少なくともジャーナリストとしては落第じゃなかろうか。てか質疑の時間に質せなかったのかな。