2014年8月9日土曜日

正確な報道をする責任は新聞社にあるか

今回の慰安婦問題・吉田清治証言の記事取り消しの件で朝日新聞を批判する声は多いけど、どうも実効性に欠ける話ばかりだなぁ…と思っている。

「朝日は誤報を反省しろ!謝罪しろ!」…反省なんて強制できないし、そもそも反省するくらいなら何十年も放置しない。謝罪されたって何もうれしくないし。

「社内で担当者を処分しろ!」…ハイそうですかと処分しないでしょう。

「日本が受けた損害を賠償させろ!」…朝日は自分たちの政治的スタンスを正しいと思っていて、日本に損害を与えたなんて思ってないんだから無理だよね。

「社会的制裁を与えろ!」…いやいや、むしろマスコミ(=社会的制裁の道具)である朝日の方が、朝日批判側に社会的制裁を加える方がずっと簡単。

「国会に社長を招致しろ!」…招致して、誤報を謝罪させることができても、それでどうなる。まさか新聞社を潰させるわけにもいかないし。

「朝日解体!」…意味わかんない。叫んで気持ちよくなってるだけ?

やるならもっと実効性のある批判をしたらいいのに、と思う。

たとえば、読者が朝日新聞に損害賠償を請求するとか。現在の読者でも、以前購読していた人でも。

結果として日本に損害を与えた(かも知れない)朝日の第一の罪は、誤報を誤報だと気づいてから今までの長い間、訂正しなかったことでしょう。その損害を直接的に受けたのは読者。新聞という報道機関に金を払っていたのに、嘘をずっと知らされていたわけだから。立場が右か左かとか、そういうの関係ない。

このへん↓によれば、

日刊時事ニュース:朝日新聞が従軍慰安婦問題「済州島で連行」吉田証言虚偽と判断

朝日は吉田証言を1982年9月2日に報じた後、1997年3月31日までの取材で、吉田証言に裏付けがないことに気づいている。だから短く見積もっても1997年3月から2014年8月までの約17年間、朝日は記事を取り消せたのに取り消さなかった。

この期間、朝夕刊セットを購読していた読者が払った購読料は、ここのデータ↓

戦後昭和史:新聞購読料と新聞広告費

から大雑把に計算すると約80万円。この範囲で損害賠償を請求する権利があるのでは。加えて慰謝料。合わせてどうだろう、おとなしく1万円くらいとか。

さて、朝日の発行部数は約760万部らしい。もし1%=約8万人の読者が集団訴訟を起こせば、請求額は80億円。ここ↓によると、

THE PAGE:新聞は生き残れるのか? 新聞社経営の実態は?

朝日の経常利益が170億円くらいだそうだから、その約半分が吹っ飛ぶ額だ。これはどんな「社会的制裁」や「謝罪」よりも実効性があるんでは。

問題は、損害賠償請求権があるかどうか。私は法律の専門家じゃないけど、その権利はあると思う。以下、それについて。

新聞を規制する法律は日本にはなさそうだけど、公職選挙法の中に、
第百四十八条  この法律に定めるところの選挙運動の制限に関する規定(第百三十八条の三の規定を除く。)は、新聞紙(これに類する通信類を含む。以下同じ。)又は雑誌が、選挙に関し、報道及び評論を掲載するの自由を妨げるものではない。但し、虚偽の事項を記載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない。
嘘を報じるのは表現の自由の濫用だと書いてある。また、新聞の契約書には、正しい報道をしますとか、誤っていたら直しますとは書いてないようだけど(参考:新聞の定期購読を考える会:契約カードとは)、新聞が原則として正しいことを報道するのは社会通念で(だから朝日だって記事を取り消したんだろう)、契約に明記されていなくても、両者は合意して契約したと考えられる。

すると、約17年間に及ぶ取り消しの遅れ(不作為)は、民法の契約違反(債務不履行)の条文
第四百十五条  債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
に相当しそうに思える。

また、不法行為に関する条文を見ると、
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
となっている。民主主義国家では国民が正しい情報を知ることが重要で、そのために読者は金を払って新聞を購読している。公器であるはずの新聞から正しい情報を得られることは、「法律上保護される利益」と考えられる。そうでなければ再販価格維持とか、公職選挙法での特別扱いとか、いろいろな特権を与えられる理由がない。

…とまあ、素人がいろいろ考えてみたけど、要は「正確な報道をする責任は新聞社にあるかどうか」をこの機会に裁判所に判断してもらうといいと思うのだ。新聞社を法律で縛るのは言論の自由からまずくなる。そうじゃなくて、この個別の、しかも大きなケースで、金を払っている読者には正しい情報を得る権利があるかないか、それを明らかにしてほしい。そしてもしもあるなら、朝日新聞は多額の賠償金を払って、否応なく反省せざるを得なくなるでしょう。

(もしそんな権利がないなら…誰が月に4千円も払って新聞紙を買うんだろう?)

こういうルートの方が、朝日の内部改革を求めたり、謝罪を求めるよりも、ずっと実効性があると思うんだけど、どうかな。

難しいのは、朝日の読者に集団訴訟を呼びかけるのに最も適したメディアが朝日新聞だってことだ。載せるとは思えない(苦笑)。でもまあ、NHK一万人集団訴訟なんてのができるくらいだから、無理だと決まってるものでもないよねきっと。