2018年11月13日火曜日

潜在成長率とは・潜在GDPとは

日本経済の回復のために潜在成長率を引き上げる必要がある、と主張されることは多い。

平成30年度 年次経済財政報告 ―「白書」:今、Society 5.0の経済へ― キャッシュ
このように日本経済は戦後最長に迫る景気回復の一方で、GDPギャップが縮小する中、企業の人手不足という課題に直面しており、今後は企業の生産性や日本経済全体の潜在成長率を高めていくことが特に重要になります。
潜在成長率とは潜在GDPの成長率のことである(*1)

*1:日本銀行調査統計局『需給ギャップと潜在成長率の見直しについて』2017年4月(以降「前掲日銀」とする)2ページ、吉田充(内閣府政策統括官(経済財政分析担当)付)『GDPギャップ/潜在GDPの改定について』2017年6月(以降「前掲内閣府」とする)22ページ。

実際のGDPと潜在GDPの差をGDPギャップあるいは需給ギャップと呼ぶ(前掲日銀2ページ、前掲内閣府4ページ)

IMFはGDPギャップ(output gap)および潜在GDP(potential GDPあるいはpotential output)を次のように定義する(*2)
The output gap is an economic measure of the difference between the actual output of an economy and its potential output. Potential output is the maximum amount of goods and services an economy can turn out when it is most efficient—that is, at full capacity.
拙訳:GDPギャップは1つの経済指標であり、ある経済の実際のGDPと潜在GDPとの差である。潜在GDPとは、ある経済が最も効率的であるとき――すなわち最大生産能力にあるとき――に生産できる財とサービスの最大量である。

*2:IMF「What Is the Output Gap?キャッシュ

続くIMFの説明にはこうある:
Just as GDP can rise or fall, the output gap can go in two directions: positive and negative. Neither is ideal. A positive output gap occurs when actual output is more than full-capacity output.
拙訳:GDPが増減するのと同様に、GDPギャップもプラスとマイナスの2方向に動きうる。どちらも理想的ではない。プラスのGDPギャップは、実際のGDPが最大生産能力よりも大きい場合に起きる。

潜在GDPは最大の生産量であるが、実際のGDPがそれ以上になることがある、と説明されている。

この矛盾は例えば次のように指摘されている(*3)
For example, in the October 2015 World Economic Outlook, the IMF projects Spain to have an unemployment rate of 16.6 percent in 2019. Yet, even by the IMF's lowest estimate of the output gap — the difference between potential and actual GDP — Spain's GDP is forecast to be above potential GDP in 2019. In other words, the IMF estimates that Spain will in some sense be fully employing its labor force despite one in six still looking for work.
拙訳:例えば、2015年10月の『世界経済見通し』において、IMFは2019年のスペインの失業率を16.6%と推定している。しかしながら、IMFによるGDPギャップ――潜在GDPと実際のGDPの差――の予測のうち最も小さいものでも、2019年のスペインのGDPは潜在GDPよりも大きいとされている。言い換えると、IMFは6人に1人が職を探しているにもかかわらず労働力の全てが雇用されているだろうと予測している。

*3:David Rosnick『Potential for Trouble: The IMF's Estimates of Potential GDP』2016年4月、2ページ。

つまりIMFの説明は矛盾している。潜在GDPが最大生産能力における生産量であれば、実際のGDPがそれを超えるはずはない。

現実に、前掲内閣府によるとGDPギャップがプラスである期間(つまり実際のGDPが潜在GDPを上回っている期間)が存在する(*4)

*4:前掲内閣府、第1-1-14図 GDPギャップの動向キャッシュ

よって、潜在GDPとは、その時点でその経済が達成できる最大のGDPではない。

日銀および内閣府による潜在GDPの定義は、IMFのものとは異なる。

日銀は潜在GDPを、景気循環の影響を均してみた「平均的な供給力」とし(前掲日銀2ページ)、内閣府は「経済の過去のトレンドから見て平均的な水準で生産要素を投入した時に実現可能なGDP」と定義する(前掲内閣府6ページ)。いずれも過去のトレンドから見た平均であり、潜在GDPというよりむしろ「平均予想GDP」と呼んだほうが誤解が少ないと思われる。

潜在成長率は潜在GDPによって定義されるので、潜在GDPが過去のトレンドから見た平均的なGDPであることから、潜在成長率とは過去のトレンドから見た平均的な成長率であり、同様に「平均予想成長率」(*5)と呼ぶべきものと思われる。

*5:「平均成長率」と呼んだほうがいいのでは、という指摘がすでにある。『潜在成長率は成長の限界を意味しない。実際の成長が潜在成長率を高める』経済、政治、テクノロジーなど豊かな未来のために知っておきたいこと、2018年6月9日キャッシュ

まとめると、少なくとも日銀および内閣府によるデータを見る場合には、潜在成長率とは、過去のトレンドから見た平均的な成長率のことであり、要は現時点までの成長の実績を平均したものであって、(言葉自体が印象として与えるような)「可能な最大の成長率」のことではないということになる。IMFのデータについても、指摘されているように実際のGDPが潜在GDPを超えうるのだから、潜在GDPは可能な最大のものと見ることはできない。

冒頭の『白書』には次の記述がある。
潜在成長率とは、労働や資本の平均的な稼働率で実現できる供給能力、いわば経済の基礎体力を示しますが、現状は、潜在成長率が実際のGDPに追い付かず、両者の差を示すGDPギャップがプラスになっています
この潜在成長率の説明は誤導的である。前掲日銀や前掲内閣府は、過去のトレンドつまり実績の平均であると明確に述べるが、この『白書』の定義は「平均的な稼働率で」とするだけで、実績との関連を明示していない。つまり、労働や資本の(実績でなくそれ自体の能力としての)平均と誤読することができる。

冒頭に掲げた『白書』の記述をもう一度見てみる。
今後は企業の生産性や日本経済全体の潜在成長率を高めていくことが特に重要になります。
潜在成長率を今後高めていくとは、成長の実績の平均を高めることであるから、単に「成長していく」と言っているにすぎない。つまり、潜在成長率を高めることは経済が実際に成長することそのものであって、経済成長の手段にはなりえない。

報道は例えば次のようになる(*6)
一方、少子高齢化で人手不足が深刻化しており、経済の実力を示す潜在成長率の向上が日本経済の大きな課題だと訴えた。
*6:時事通信『景気拡大「戦後最長迫る」=潜在成長率の向上課題-経済財政白書』2018年8月3日

まさに誤読の結果と言えよう。

2018年9月4日火曜日

消費税の理論に対する質問

消費税制度では、売り手である事業者が消費税額を価格に上乗せして商品を売って、税額分を納税したとき、税負担は買い手に転嫁され、売り手の負担はないとされている。

消費税がないときに100円だった商品を、8%の消費税の下で売り手が108円で売り、8円を消費税として納税したとき、手元には消費税がない場合と同じ100円が残るから、売り手の負担はない。買い手は消費税がないときよりも8円を多く支出したから8円が税負担である。そういう説明である。

では、次の2つの質問にどう答えられるだろうか。

1. 消費税がある場合において、取引の直前に、売り手は商品を所有し、買い手は108円の金銭を所有している。取引が行なわれ、売り手が納税した後では、売り手は100円の金銭を所有し、買い手は商品を所有している。商品の市場価格は108円であるから、買い手が即座に市場で商品を売ると(例えば同じ商品を欲しがっている他の消費者に売ると)108円の金銭を取り戻せる。しかし売り手の手元には100円しかないので、市場で同じ商品を買い戻せない。税による損失を被ったのは売り手のほうではないのか。

2. 消費税がすべての商品の価格に上乗せされたとき、物価指数は8%上昇する。消費税がないときに基準を置くと、消費税がない場合の売り手の所得は、名目所得で100円、実質所得で(名目所得/物価指数なので)100円であり、消費税がある場合の売り手の所得は、名目所得で100円、実質所得で(100/1.08≒)92.6円であり、実質所得は減っている。これは売り手の税負担ではないのか。

私ならこの↓本にあるように答えます。

『消費税を本当に負担しているのは誰か? 〜間接税の真の姿に迫る〜』(Amazon)

2017年9月11日月曜日

事業者が負担する付加価値税と「消費者が負担する」消費税は同じ

元の世界

事業者Aは、仕入0円、人件費80円でサービスを100円で提供している。利益は20円。

事業者Bは、仕入40円、人件費40円で商品を作り、100円で売っている。利益は20円。

付加価値税のある世界

以下のような(仮称)「事業付加価値税」を導入する。

事業者は、商品やサービスを販売したとき、売値から仕入値を引いた額(付加価値額)に20%を掛けた金額を納税すべし。この税を負担するのは事業者と見ていいよね。

事業者Aは、税の導入前と同じ20円の利益を確保したい。いくらでサービスを提供すればいいか。簡単な方程式を解いて、125円と分かる。付加価値額125円に対して20%の25円を納税すれば手元に100円が残る。人件費80円を引いて、利益が20円。

事業者Bも、税の導入前と同じ20円の利益を確保したい。税の導入で仕入が40円から50円に上がる(納入業者が同じく利益を確保しようとし、20%の値上げが起きた)。このとき商品をいくらで売ればいいか。

ここでも方程式を解いて、125円と分かる。確認すると、付加価値額=125円-50円(仕入)=75円、その20%である15円を納税するから手元に60円残る。40円を人件費に充てれば、残りの20円が利益。

消費税のある世界

事業付加価値税を撤廃し、税率25%の消費税を導入する。

事業者Aはまた20円の利益を確保したい。仕入0円+人件費80円+利益20円に消費税25円を上乗せして、125円で売る。そして25円を納税する。

事業者Bも20円の利益を確保したい。仕入が元々40円だが、消費税が10円乗るので仕入は50円。人件費40円を乗せ、仕入の消費税額控除10円を勘案して方程式を解けば、売値は125円。確認すると、125円(売値)-50円(仕入)-40円(人件費)-(25円(消費税)-10円(控除))=20円の利益。

比べてみよう

事業付加価値税と消費税の場合で

  • 仕入値
  • 人件費
  • 利益
  • 納税義務者
  • 事業者の納税額
  • 商品やサービスの販売価格

を比べてみると、まったく同じ。

事業付加価値税は明らかに事業者が税を負担していると見えるが、消費税の場合は「消費者が負担している」と言われている。不思議だね。

2016年5月17日火曜日

Gillette Sensor Excelの本体を買い直した

ジレットのセンサーエクセルというT字カミソリを長年使っていたんだけど、ちょっと泊まりに出た先で浴場に置き忘れて失くしてしまった。

まだ替刃が5つほど残ってるんだが、これを機に新しいモデルに買い換えようかと思ってホームセンターで見たら、本体はともかく替刃が高い……ひとつ300円とか。ではもう一度センサーエクセルと思いきや、替刃は売ってるけど本体は売ってない。

じゃあネットということで、アマゾンやいろいろ見て回ったところ、生産中止のようでやっぱり見つからない。が、どうもインド向けのGillette Vector 3という製品でSensor Excelの替刃を使えそうな話がある。

そこでeBayjupiterhobbyという出品者からGillette Vector 3を買った。値段は5.32米ドルで600円弱。インドから来るのに送料無料。これで残ってる替刃が使えれば安いものだ。

注文して10日ほどで商品が着いた。


送料は90インドルピー、150円くらいか。開けてみると…


なんかお菓子の箱を潰したものに入っている(^^;; さらに開くと


ちゃんとカミソリだった(^o^)


大きさの都合か上の方が切られているけど、パッケージを開けてみた感じではちゃんと未開封新品。


失くしてしまった元の柄は金属製だったが、これはプラスチック。むしろこっちの方が扱いやすそうでいい。Sensor Excel と刃を比べてみると、


Vector 3は3枚刃なのね。Sensor Excelは2枚刃。そのぶんVector 3の刃のほうが大きい。こっち↓の方がわかるかな?


さてさて、ちゃんとはまるか…


はまりました。バッチリ。これで替刃を無駄にしなくて済んだ。さっそく使ってみると、前よりだいぶ柄が軽いけど、刃は滑らかに動くし、いい感じ(^v^)

Sensor Excelの替刃は日本でもまだ普通の値段で買えるし(アマゾンではジレット センサーエクセル 替刃10個入で単価125円くらい)、もしVector 3の刃のほうが使い心地よければまたインドから買えばいいな。12個入りで単価65円くらい、さらに送料無料とか、実はそっちの方が安い (^^;;

2015年10月28日水曜日

iPhone/Macの連絡先をAndroidに移す

iPhone5のスリープボタンがほとんど効かなくなった。調べたら iPhone 5 スリープ/スリープ解除ボタン交換プログラムの対象のようで、アップルに電話したらピックアップ&デリバリーで修理してくれるとのこと。

修理に5日程度かかるそうなので、auに代用機を借りることにした。貸してくれたのは Android の SHL25 という機種。Google Map が入っているからカーナビにも使ってる iPhone の代わりにはなる。が、電話帳データは一時的にでも入れないと一週間かなり不便する。

自分は iCloud で電話帳データを Mac と iPhone で共有している。このデータをAndroid携帯に入れたい。いろんな手があるようだが、紆余曲折の結果、こうしたよ、という話。参考にされるなら自己責任で…

結論から言うと、
  1. Mac の連絡先アプリから「すべての連絡先」をvCard形式でファイルに書き出す。(カードの欄で⌘-Aすれば全部選択できる)
  2. そのファイルの文字コードをUTF-8からShift_JISに変換する。a.vcf というファイルを作ったとする。
  3. Dropbox に一時的に入れる
  4. 入れたフォルダのリンクを共有のために生成
  5. 長いので bit.ly で短縮
  6. Android 側でブラウザを使ってそのリンク先にアクセス
  7. ファイルをローカルに直接ダウンロード
  8. 電話帳アプリで開いて読み込む(一括登録、登録先は本体、追加登録を選択)
…とした。ただ、Mac の連絡先アプリではフルネームが「名 氏」になってるようで(自分の設定のせい?)名前表示が「太郎 山田」みたいになってしまうが、一時的だから直さなかった。必要ならステップ1と2の間で vCard のデータをいじるとかで対処できる。

追記(2015年10月29日):ネット経由でなく、AndroidスマホをUSBケーブルで Mac につなぐ方法でもできた。Android File Transfer を使う(長いから以下 AFT と書く)。これは本家のアプリみたいなので大丈夫そうと思った。
  1. Mac の連絡先アプリからすべての連絡先をvCard形式でファイルに書き出す
  2. そのファイルの文字コードをUTF-8からShift_JISに変換する。そのファイルを a.vcf とする。
  3. Mac に AFT をインストールする
  4. スマホの画面ロックを解除してUSBケーブルで Mac につなぐ。AFT が自動的に動く(動かない場合は手で動かす)
  5. AFT のウィンドウの Download フォルダに  a.vcf をドラッグ&ドロップする
  6. スマホで電話帳アプリを開く
  7. メニューから「設定・管理」>「ストレージからインポート」を選ぶ。セキュリティキーを入力するとファイル一覧が表示され、その中に a.vcf がある。
  8. それをタップして、一括登録を選び、登録先を本体にしてOK、確認で「追加登録」を選ぶ
  9. AFT で a.vcf を Android のストレージから削除する
なお、ストレージに直接USB経由で書き込んだ場合には、ダウンロードアプリが表示するファイル一覧にそのファイルは現れないようだ。(追記終わり)

以下、うまくいかなかった/使わなかったやり方。
  • auショップでは「フレンズノートというアプリを使えばできる」と言われた。iPhoneアプリのフレンズノートで一度auのサーバにアップロードして、同じフレンズノート(Androidスマホに最初から入ってた)でダウンロードしろ、ということだったようだが、iOSアプリのフレンズノートをダウンロードして動かすと、サーバにアップロードするにはデータお預かりアプリなるものを使えと出てくる。このデータお預かりアプリなるものの評判がすこぶる悪い(データが消えるとか)ので使うのをやめた。
  • とにかくvCard形式のデータを Android のストレージに入れればできるようで、ファイルをPCと共有できるソフトも探した。ESファイルエクスプローラーというのが無料であったが、どうもセキュリティが怪しいようで、これも避けた。
アプリはセキュリティが問題になるから、できるだけ基本的な手段で済ますのが吉だと再認識した。

2015年3月7日土曜日

確定申告の覚え

青色申告3年目。さすがに慣れてきた。税務署で税理士さんに聞いたことメモ。

  • 会計ソフト(やよいの青色申告)で、昨年度即時償却して未償却残高がゼロになった固定資産が、今年度の「減価償却費の計算」に現れる(未償却残高ゼロとして)。これは消してしまってもいいそうだ。今年もそのまま出したが、やよいの青色申告オンラインに移行するときには消してもよさそう。
  • 普通に減価償却すると未償却残高1円まで償却するけど、即時償却だと0円になるのは、そういうものらしい。それでいいらしい。

以上、間違いもあるかも知れないので、正確なところは税理士さんや税務署に聞いて下さい。

そういや今回の確定申告で疑問があってネットで調べたら、自分の前回の覚えにヒットしてそれで問題が解決したり。まあよくあることだけど (^^;;

2015年1月14日水曜日

睡眠時無呼吸の自分的チェックと対処(AveoTSD)

ここ数年、睡眠時無呼吸に悩まされていた(と自分で気づいてなかった)けど、それを自己チェックして、ひと月くらいで症状を改善できた、という話。

睡眠時無呼吸かどうか?という紆余曲折


自分の症状としてはこんな感じ。

  • 早く目が覚めてしまう(午前3時とか)
  • 睡眠時間を十分とっても、起きた時によく寝た気がしない
  • 起きている間、ずっと徹夜明けのように頭が重い
  • 頭が動かない
  • おかげでイライラするし、やる気が出ない
  • 夕方、仕事中に強烈な睡魔が襲ってくる

おかしいと思って医者にかかり始めたのが3、4年前のこと。

まず睡眠時無呼吸を疑い、大きめの病院にかかった。簡易型睡眠モニターを使った自宅での測定のあと、検査入院で終夜睡眠ポリグラフ。結果は、多少は無呼吸があるが、CPAPするほどではない、と言われた。かかったお金は3万円くらいか。

眠りが浅いためかとメラトニンサプリを試す。たしかにふわっと眠くなるけど、もともと寝付きはよかったのでその効果には意味なく、症状の方にも改善が見られず。

次に(引っ越したので)別の病院の不眠外来的なところにかかる。問診のみでストレスが原因ではないかと診断されて、抗鬱剤と睡眠薬みたいなものを処方されたが、あまりにもいい加減な診察だったので信用しないことにした。

心療内科で相談する。鬱の症状だろうということになり、1年間抗鬱剤を投薬。朝早く起きてしまうことはなくなったが、他の症状に改善は見られず。1年で7, 8万はかかったのかな。

運動不足で眠りの質が悪いのかと、週3回10kmずつ走ってみるが、毎日ヘトヘトになるだけ。意図せず四十肩が治るというご利益はあったが、命削ってたかも…

頭が動かない原因はセロトニン不足だろうかと、トリプトファンサプリなどを試すが変化なし。

男性更年期障害を疑って血液検査(数千円)をしても、問題なし。

で、やっぱり睡眠時無呼吸じゃないの?と疑って、自己チェックをした。

ICレコーダーを使った自己チェック


語学学習用に持っていたVoice-TrekというICレコーダーで、寝息を録音した。メモリ容量も、電池の持ちも、一晩くらいは余裕。私のは昔に買ったから1GBでも高かったけど、今は3000円も出せば2GBのとか買えるみたい。




早聴き機能(さすが会議用・語学向けならでは、ですな)の倍速再生なら3時間くらいで聴けるから午後の仕事中にでもイヤホンで流しとけば確認できるし、音声編集ソフト(*1)で波形表示すればこの通り↓


これ↑は症状がひどいときの波形。一部拡大すると:


線を引いたのは、完全に無呼吸あるいはほとんど息ができてない部分。2分近くまともに息をしてないところもある。後半は、息ができず、いびきと呼ぶには恐ろしい音が出ているところ。波形を見てるだけで苦しくなる…ここの基準で、中等症から重症くらいか。

(*1) Audacity というフリーソフトを使った。

ということで、自己診断で睡眠時無呼吸と判定した。検査入院で症状が出なかったのは、センサーが体にたくさんついてるとか、緊張したとかで、いつもと同じ睡眠にならなかったせいだろうと思ってる。

ICレコーダーで一晩録音して翌日でもう自己診断ができたって、医者とかサプリに費やした時間とお金がバカバカしかったな…

マウスピースAveoTSDを使ってみる


症状改善に横向き寝が効くのはすぐに気づいたが、寝返りうって仰向けになると症状が出てしまう。ネットでいろいろ調べていたら見つけたのがこのマウスピース。パッケージ内左の無色透明なのが本体。右の青いのはケースです。

AveoTSD。いびき防止&気管拡張医療器具、だそうだ。

いびき防止用具として以前は日本でも通販で買えたみたいだけど、今は買えるところが見つからない。日本の代理店が「当商品は病院・歯科医院でお求めください」と言ってるので、医療用具として規制がかかった感じ。

そこでeBayから買った→ eBay: AveoTSDRemedy Hut という店を使ってみた。所在地がアメリカだし、評価がよくて信用できそうだったから。本体が(現時点で)100ドル弱、送料が15ドルくらい。注文から約1週間で届いた。マウスピースに1万円は高いような気もするけど、医療用グレードのシリコンを使っていて、効果が臨床的に認められてて(http://www.aveotsd.com/clinical-trials.php)、各国で医療用具として承認されているそうだから、まあそのくらいしてもいいのかな。ずっと口に入れておくから材料が怪しいと恐いし。

原理とか使い方については本家に情報があるので、興味あれば見て下さい。

さて、これをつけた初日、仰向けで寝た波形がこれ↓


通して聴いても無呼吸のところが全くない。2時間台を拡大すると、


これは規則的な寝息。最後の大きな振幅は、深呼吸と寝返り。4時間半以降の大きな振幅も寝返りの音。

ということで、私には驚くほどの効果があった。まあ人によって違うだろうとは思う。マウスピースの謳い文句には、軽度〜中程度の睡眠時無呼吸(舌根が喉に落ちて閉塞するタイプの症状)に効果あるようなことが書いてある。重度だとCPAPのお世話になる必要があるのかな。けっこう苦しいらしいけど…

症状の改善


すぐに感じたのは、夕方の眠気がなくなったこと。以前は、また今日も睡魔が来た!って戦っていたのが、仕事して気づかないうちに夕飯の時間になってる。

頭の重さは取れないかぁ…と思っていたら、これはひと月くらいかけて徐々になくなってきた。今、AveoTSDを使い始めてふた月くらい。頭が動かない自分にイラつくようなことは全くなくなった。最初に挙げた症状は、もうほとんどないと言っていい。あとは、十分眠った後の「あー、よく寝た!」というスッキリ感が戻れば完璧、ってとこか。

根治に向けて


マウスピースはあくまで対症療法。自分が調べた限り、確立された根治法は今のところなさそう。歯ブラシを使った舌の運動をするといいという論文が出たり、舌を突き出したりする運動がいいとかいう話はある。

Tongue Exercises For Sleep Apnea

自分、仕事しながら、気づいた時に舌を前に突き出したりしてる。効果はまだ不明。

でも、睡眠時無呼吸が健康に害を及ぼすなら、本来的にそういう構造を持った個体は進化の過程で淘汰されているはずだから、いま多くの人が睡眠時無呼吸に悩んでいるなら、きっといわゆる現代病じゃないかな。肥満とか、舌の運動不足とか。だから、運動が効くという話には説得力を感じる。もしかして「舌根の肥満」かも?

まとめ


  • 自分で鬱だと思ってても睡眠時無呼吸の可能性がある
  • ICレコーダーを使った睡眠時無呼吸の簡単なチェック方法
  • AveoTSDはとても効いた。CPAPの前に(あるいは、代わりに)試す価値はあるかも

AveoTSDの使用感については、気が向いたらレビューを書くかも知れません。